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大阪地方裁判所 昭和33年(ワ)1395号 判決 1960年3月11日

事実

原告は(1)昭和三二年四月五日訴外K振出の額面金一一万円、満期同年六月一五日の約束手形を被告方で割引し、(2)同年六月四日訴外K振出の額面金一二万円の満期同年八月一五日の約束手形を被告方で割引し、それぞれ右手形を裏書交付し、その際万一各手形呈示の上支払拒絶を受けたときは裏書人としての手形上の義務の履行について公正証書を作成するための白紙委任状を被告に交付しておいた。これに基づいて被告は、昭和三三年六月二八日金銭債務承認履行に関する契約公正証書を作成した。公正証書には、原告は昭和三二年四月五日被告より金二五万五九〇円を弁済期同年七月七日の約定で借り受けた趣旨になつている。

原告は右公正証書の基本債権は存在しないと主張。すなわち、原告は被告が右手形の支払拒絶を受けた場合その遡及義務を負担する趣旨であるから、手形は所定の期日に呈示されることが必要である。しかるに被告は前記(1)の約束手形は振出人Kとの間で合意の上原告の承諾なしに手形上の満期日を昭和三三年八月一五日と訂正し、訂正前の満期日には呈示をなさず放置していたから、原告は右手形の裏書人としての遡及義務を有しなくなつた。ところが被告は約旨を無視して権限外の事項について前記白紙委任状を使用して公正証書を作成した。その上(2)の約束手形は満期の後Kが手形金を支払つて取り戻している。原告は被告に対しなんらの債務を負担していない。よつて本件公正証書の執行力の排除を求める。

これに対し、被告は(1)の約束手形の満期日の訂正は公正証書作成後なされたもので事実上の支払猶予のためのものであつて公正証書の効力に影響はなく、右手形金一一万円は未だ支払を受けていないから、その限度において公正証書に基づいて執行できる。よつて原告の請求には応じられないと抗争した。

理由

証拠を総合すると、被告はK振出の約束手形を被告より受けた際右各手形が不渡りとなつた場合裏書人たる原告の償還債務の履行に関する公正証書を作成するため原告より受け取つていた白紙委任状、印鑑証明書を用いて昭和三三年六月二八日原告の代理人としてSを選任し同人と公証役場に出頭して原告主張の公正証書を作成したこと、前記(1)の約束手形について満期前の六月一三日頃振出人たるKは満期の記載を変更することを申し出で被告の同意を得たので満期の記載を同年八月一五日に変更したこと、右満期の記載の変更については原告の同意を得ていないこと、被告は(1)の約束手形は原記載の満期には適法なる呈示をしなかつたことが認められる。

そうすると約束手形変造前の署名者は変造前の原文言に従つて責任を負うものであるから、裏書人たる原告に対する関係に於ては被告が原記載の満期に適法な呈示を怠つたことにより原告は右の約束手形については裏書人としての遡及義務を免れたものというべく、又(2)の約束手形については被告がその支払を受けたことは当事者間に争いのない事実である。

そうすると、原告は被告に対し前記約束手形上の債務を負担していないものであるから前記公正証書の執行力の排除を求める原告の請求は理由がある。

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